木曜日の子どもたち

君のことばかり 気になる

踊るアイドルたち

 ハロー!プロジェクトのアイドルグループ℃-uteの『DANCEでバコーン!』という曲がある。ライブでも定番だったダンスナンバーだが、歌詞はちょっと切ない。汗だくになって踊りながら、なぜ自分が泣いているかも分からないという曲だ。この曲より半年前にリリースされたKAT-TUNの『THE D-MOTION』という曲とシチュエーションが少し似ている。いかにも今風のおしゃれな男の子が踊ろうよ笑おうよと軽薄に誘いながら、実はその胸は張り裂ける寸前なのだ。

 もうひとつこの二曲に共通している点は、今この瞬間はすぐに去り、すぐに明日がやってくるという諦めにも似た前向きさである。歌詞をよく読むと、それぞれにただ踊りながら、過ぎ去ろうとしている〈時〉に思いを馳せて曲が締めくくられているのだ。

 そして2017年6月、奇しくもKAT-TUNの活動休止中に、℃-uteは解散した。時間の経過は時として痛みを伴い、しかし彼らには踊る以外に為す術もない。

 

 

『踊るんだよ』

『なぜ踊るかなんて考えちゃいけない』

『それもとびっきり上手く踊るんだ。』

 

 これは村上春樹の小説『ダンス・ダンス・ダンス』の一節だ。ひとつひとつ大切なものを失い始めていた“僕”の目の前に突如現れた羊男が与えたアドバイスである。羊男が言うには、意味など考えていたら足が停まる。どんなに疲れていても脅えていても、音楽が続く限り足を停めてはいけない。きちんとステップを踏んで踊り続けることによって固まったものはほぐされ、手遅れになっていないものを見つけ出すことができるというのだ。

 

 “ステップを踏む”というフレーズが、この物語では繰り返される。踊るということとステップを踏むことが同義なのだ。逆に言えば、足さえ動かしていれば踊っていると見なされるということでもある。足を動かすということはつまり移動するということであり、実際“僕”は、物語の中で頻繁に長距離を移動している。時は過ぎゆき、場所は移り変わる。そんな中で“僕”は失った沢山のものと自分自身を取り戻してゆくのだ。

 

 ぼうっとしていたら、時は過ぎてゆく。状況は腐ってしまう。しかし踊ることで再生するもの、生まれていくものがある。アイドルたちが過ごした日々も、それぞれが無心に踏んだステップの軌跡が偶然に重なった結果起こった、一度限りの出来事だ。彼ら・彼女らは一時だけ交わり、それでもまだ踊る以外に為す術を持たない。これは全てのアイドルに言えることだ。今この瞬間もアイドルたちは停まることなく、汗をかきながら、複雑で素敵なステップを踏み続けているのだ。音楽が続き、そこに観客がいる限り。